農のある風景を訪ねる〜愛知の蚕スケープ〜

コラム
天の虫!

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私のお気に入りの農風景を紹介するこの連載コラム、第2弾を迎えることになりました。記念すべき1回目は小菅村にある橋立地区の掛け軸畑の風景を紹介しました。(掛け軸畑の記事はこちら
今回は私の大好きな養蚕のある風景を愛知県新城市の養蚕農家さんを通して、ご紹介したいと思います。

蚕は天の虫

皆さんは蚕(カイコ)という昆虫をご存知でしょうか?少し前までは農村の優秀な副業として多くの家で養蚕が行われていました。養蚕は絹の材料となる繭を作る農業で、昔は高値で取引され多くの富をもたらしたため「おカイコ様」と大切に育てられてきました。多くの儲けを生むためにエサとなる桑の葉が出来る間は作業があり、主に女性の仕事で作物を作る作業、子育て、家事、養蚕と多くの仕事をこなしていたおばあちゃん達は「大変だった〜」と思い出す方も多いです。

たくさん育てています

たくさん育てています

しかし、カイコにはそれを超えた何とも言えない魅力があります。カイコは完璧な家畜昆虫と言われており、人の手がないと生きていけないように改良されています。逃げることもせず、せっせと与えられた桑の葉を食べ、美しい繭の糸を作る様子は本当に愛おしく、美しい白いボディはまさに天の虫にふさわしいと思います。

天の虫!

天の虫!

建築にも影響を与えた蚕

多くの日本家屋では平屋の2階部分で養蚕を行っていました、そもそもは農地を確保するために家の2階で飼っていたという事なのですが、温度と風通しが必要なカイコにはまさにぴったりの場所です。建築の先生によると人間にとってもただの平屋より2階部分があることで空気の層が出来、熱効率がよくなるとのことです。まさにお互いにいいことがある関係であったのです。

2階で育てていました

2階で育てていました

今でも美しい景観が残り、日本人の原風として世界遺産にも登録されている岐阜県白川郷の合掌造り等は養蚕業が家の構造に大きな影響を与えたと言われています。

養蚕が大きな影響を与えた白川郷

養蚕が大きな影響を与えた白川郷

雨は降らずとも雨は降る

いよいよ養蚕を行っている現場を見せていただくと、風通しの良い小屋の中一面にカイコを置く台が広げられていました。

どこにカイコちゃん達いるのかな〜?

どこにカイコちゃん達いるのかな〜?

一面緑色に見えますが、よく見ると白いカイコ達がたくさんいます。虫が苦手な方は恐ろしい光景かもしれませんが、現場に行くとそれほど怖くありません。カイコ達が一生懸命にエサを食べる姿がかわいく感じるほどです。
このときによく聞く言葉で「雨が降っているようだ」と言われる音の風景に出会うことが出来ます。
部屋に入ると雨が降ったように「ぱちぱち、ぱちぱち」と音がします。これはカイコ達が桑の葉を食べている音なのです。1匹のカイコでは聞こえない音もたくさんのカイコが集まれば雨が降っているかのような大合唱になります。
これも大事な養蚕の風景です。

ぱちぱち食べています

ぱちぱち食べています

眠の時間

心地よいぱちぱちという音を楽しみに次の日訪ねると、今度は逆に完全なる静寂な世界が広がっていました。カイコは繭を作るまでに4回の脱皮を繰り返すのですが、この脱皮前に「眠(みん)」という時間があります。一斉にカイコ達が眠ったように動かなくなります。この時は桑の葉をやらないようにするので、一面に雪が降ったような白い風景へと変わります。

白くなってきた

白くなってきた

真っ白

真っ白

脱皮の準備中

脱皮の準備中

もう一つの養蚕風景

そして、もう一つ忘れては行けない風景がエサとなる桑畑です。桑畑は今では少なくなってきましたが昔は多くの場所で見られました。毎年新芽を採るために切り戻しているので、青々とした桑の葉を見ることが出来ます。
トラックいっぱいに摘んでも一番多い時で5回も桑をあげなくてはいけないので、大量に必要になります。農家のおじいちゃんはものすごい勢いで「これはカイコさんが喜ぶ美味しそうな桑だわ〜」といいながらさっさと摘んでいきます。まさに職人技で、赤くないのに私達の三倍は速く動きます。

綺麗です

綺麗です

トンネル!

トンネル!

おじいちゃんかっこいい!

おじいちゃんかっこいい!

桑畑は昔各地に多くあったので地図記号で探すとその痕跡が見つかって面白いですよ!

このYみたいな所が桑畑です

このYみたいな所が桑畑です

桑の葉も色々!こんな素敵な形も!

桑の葉も色々!こんな素敵な形も!

繭の作る風景

いよいよ最終の5齢となったカイコ達はもりもり桑の葉を食べて(生涯食べる桑のうち8〜9割の量)熟蚕という黄色く透き通った幼虫になります。日に当てると黄金に輝き、「まぶし」と呼ばれる繭を作る専用の道具を天に向かって登る様はまさに天の虫のなにふさわしい光景です。
一生懸命に天を目指し、お気に入りの部屋が決まった蚕達は白い美しい糸を吐き繭の中にこもります。

熟蚕は黄金に輝く

熟蚕は黄金に輝く

天に昇る

天に昇る

いよいよ繭を作ります

いよいよ繭を作ります

蚕の一生はここで終了です

蚕の一生はここで終了です

信仰心がつくる風景

現在では養蚕農家も少なくなってきており、私の友人がいる愛知県の新城市でも2軒ほどとなりました。お世話になった農家さんは伊勢神宮への献上絹を出している方で、その信仰心で現在まで作っているとおっしゃっていました。
しかし、お二人の蚕に対する愛情を見ていると、その信仰心だけではなくカイコ達とのもっと深い絆を感じることができます。

逃げ出さないはずの蚕がおばあちゃんに・・・愛されすぎ!

逃げ出さないはずの蚕がおばあちゃんに・・・愛されすぎ!

若い人たちがお手伝いにいきます

若い人たちがお手伝いにいきます

お二人も含めた養蚕場の景色は、本当に神々しく人と虫が作ってきた光景と言えます。この風景から生まれた糸が何十年も残るのかと思うと心から感動しました。

おばあちゃんはカイコの気持ちがわかるんです

おばあちゃんはカイコの気持ちがわかるんです

この風景を人に例えると

のんびりした、おおらかな心のひろい人という感じです。自然とともに悠々と生きています。

ちなみに新城には鮎滝という名勝もあります!

ちなみに新城には鮎滝という名勝もあります!

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