鮎というものがいる。苔を食べ、川で釣れる魚で、香りがいいことで有名だ。塩焼きにして食べることが多いのではないだろうか。夏の季語にもなっている魚で、まさに今が旬と言える。
一般的に鮎は友釣りという方法で取ることが多い。釣具メーカーなどが友釣りでの鮎釣り大会などを行うこともある。ただ愛知県の新城市は違った。鮎は釣るのではなく、掬うのだ。トビウオのように飛ぶ鮎を掬うのだ。
飛ぶ鮎
鮎の有名な釣り方に「友釣り」というものがある。鮎は縄張りを持つ魚なので、そこに針をつけた鮎を侵入させて、攻撃してきた鮎を針に引っ掛ける釣り方だ。鮎釣りと言えば、だいたいがこの釣り方になる。
ただ愛知県新城市には変わった鮎の採り方が存在した。釣るのではなく「掬う」のだ。
泳いでいる鮎を掬うのではない。飛んでいる鮎を掬うのだ。鮎が飛ぶ、それを掬う。もう意味がわからない。
長篠の戦いの地
愛知県新城市は「長篠の戦い」が行われた場所だ。長篠の戦いは織田信長・徳川家康連合軍と、武田軍が戦った戦だ。かの有名な織田信長の三段撃ちが行われたのもこの戦である。小学校の教科書で見たあの場所がここなのだ。
さらに新城市には日本三大東照宮のひとつ「鳳来山東照宮」も鎮座している。日本三大東照宮は栃木県の「日光東照宮」と静岡県の「久能山東照宮」、そして、愛知県新城にある「鳳来山東照宮」なのだ。厳密には3つ目はいろいろ候補があるけれど。
他にもあまり市場に出回らず現地に来なければ食べられない「鳳来牛」や、味噌の甘みと半殺しの米の食感がたまらない「五平餅」など、食の面でも新城は魅力がある。そして、この地のこの時期の見所が空飛ぶ鮎を掬う「鮎滝」なのだ。
鮎滝とは?
飛ぶ鮎を掬う漁の方法を「鮎滝」と言う。この地域では昔から行われている伝統的な漁の方法で、滝を登ろうとジャンプした鮎を網で掬うというもの。非常にシンプルな原理だ。鮎は海(河口付近)で生まれ、ある程度大きくなると遡上する。その鮎が飛ぶのだ。
江戸時代から行われてきた漁で、現在はこの集落の人たちだけが行える方法だ。漁期は6月から8月の間。集落の人に順番が回ってきて、その日はその人だけが、ここで漁をしていい、という決まりだ。すごい日は数百獲れることもあるそうだ。
飛ぶ鮎を掬うだけなので、簡単と思うかもしれない。ただそうでもないのだ。そもそも鮎は人間に敏感なようで、先の滝の上流で誰かが川に手をつけたとする。すると人間の匂いが水に混じり、鮎が飛ばなくなる。
さらに天気や水温にもデリケートで、寒いと飛ばないし、天候が悪くても飛ばない。小学生の時に歌った「南の島のハメハメハ大王」みたいなのが鮎なのだ。さらに勢いよく飛ぶので、鮎が網に入った時に網を少し回転させるなどのテクニックも必要とされる。
鮎を掬うぞ!
ということで、鮎滝を特別に体験させてもらうことになった。簡単だろう、と思っていたのだ。飛んでくるんだから誰でも掬えるだろう、と考えていた。掬った次の瞬間に「アリーナー」と鼻にかかった感じで叫ぼうと予定していた。
やってみると全然簡単ではなかった。恐ろしく集中力を必要とする。滝をひたすら見つめ続け、鮎が飛んでくるのを待つのだ。さらにずっと滝を見ていると引き込まれそうになるのだ。そして、危ない、と思い集中力が切れた時に限って鮎は飛ぶ。
網は竹でできており、長いけれど、軽い。ただ持ち続けると重く感じる。スマホより重いものを持たない生活が鮎滝にも影響を及ぼしている。スマホに鉄アレイでもつけようかな、と思っている時だった。私の網に鮎が飛び込んだ。
感動だった。鮎が私の網に来てくれたのだ。ジャンプした先に私(の網)があるのだ。感動の再会みたいではないか。君に会いたかったのだ。会いたくて会いたくて震えながら新城にきたのだ。
鮎を食べる
感動の再会というか、よく考えると初対面なので、塩焼きにして食べた。めちゃくちゃ美味しい。グルメ記事では美味しいと書かずにどれだけ、美味しいかを伝える文章力が必要と聞いたことがあるけど、美味しいものは美味しいのだ。鮎は美味しい。
もっと鮎を食べたいと思い、新城にある「寿恵広食堂」を訪れた。ここではありとあらゆる鮎料理を食べることができるのだ。今回は鮎定食というものを頼んだ。鮎は塩焼きだけではないのだ。
鮎の刺身に鮎のフライ、鮎の甘露煮など、鮎づくしだ。鮎の刺身を初めて見た。そもそも川魚を生で食べる機会がないので貴重だ。フライもそうだ。鮎をフライって逆に贅沢じゃないだろうか。見た目じゃ鮎ってわからないし。
鮎は匂いがいいと聞くがそれが正しいとわかった。いい匂いというか、川魚の臭みがないのだ。もうシンプルに美味しい。クラスの女子でいうと2番目くらいの感じなのだ。それくらいに美しく美味しい。ちなみにクラスで一番は私です!
空飛ぶ鮎!
鮎釣りをしてみたい、と思っていたけれど、なかなか難しそうでお金もかかると思っていた。しかし、こういう漁の方法もあるのかと驚いた。鮎があんなにアグレッシブとも思っていなかった。滝を登るのだ。自分だったらと考えると超めんどくさい。滝なんて登りたくない。ただ鮎は登る。これが自然の神秘です。
寿恵広食堂
http://aichi.j47.jp/suehiro
新城市観光協会
http://shinshirokankou.com