「多くの人は、書籍によって初めての冒険を体験する」とインドネシアの冒険家が書いていたかどうかは知りませんが、私はそう思う。
本棚にはその人の人生や、冒険が詰まっているのだ。研究者の本棚を訪ねれば、その研究や人生の秘密がきっとその本棚に詰まっている。その人の本の読み方や、お気に入りの本を知り、私も手っ取り早く成功者への階段を上がろうと思う。
東京農業大学野生動物学研究室
東京農業大学には、世田谷キャンパス、厚木キャンパス、オホーツクキャンパスと3キャンパスがある。厚木キャンパスには農大の心臓とも言える「農学部」がある。
厚木の豊かな里山の中で、農学、動物科学、生物資源開発、デザイン農学など農学・畜産に関する幅広い分野を学ぶことができ、その中の一つに、野生動物の生態や、野生動物との付き合い方について研究している研究室がある。それが「野生動物学研究室」だ。
冒険の始まり
松林先生は、子どもの頃インドネシアに南洋材を買いに行っていた親戚のおじさんから、ジャングルの話などを聞き、胸を踊らせる少年だった。
そんなジャングル好き少年が出会った本が、この「アニマ」(平凡社)である。1973年に創刊し、1993年に休刊になってしまった野生動物や自然保護等をテーマにした雑誌だ。執筆陣には日高敏隆、星野道夫、立花隆、宮崎駿、荒俣宏などそうそうたるメンバーがいた伝説的雑誌だ。
様々な場所での研究者や冒険家の生き様は、松林先生の目にはきっとヒーローのように映っていたことだろう。いま見てもわくわくする内容だ。特に雪氷生物学の幸島司郎先生の姿は、松林先生のその後の人生を決定づけたと言っても過言ではないという。その後、先生は野生動物の研究をするために、東京農業大学を卒業後、東京工業大学でクジラの分子系統の研究などをしていた。
調査捕鯨などの現場を目の当たりにして、生き物と実際に対峙し、現場で働く方々から、多くのことを学ぶことで、フィールドに出て研究をしたいという想いがうまれた。そんな時思い出したのが、幼少期に読んでいたアニマだった。
行動は結果を伴う
早速行動に移し、自分がやりたいと思ったことは思い切ってやってみる、会いたい人には会いに行ってみることにした。行動することで、幸運にも、かつて憧れたヒーロー達である研究者達と出会うことができたのだ。
その日々の中で特に力を入れたのがボルネオのジャングルだ。幼い日の松林少年が憧れた、あの、ジャングルの生き物達だ。修士課程までは実験室での研究だったが、博士課程からはフィールドワークへの方向転換を決意し、単身ボルネオ島にわたってマレーシア・サバ州での野生動物研究を開始した。学位取得後はサバ大学の教員にもなっている。
松林先生のおすすめの本
本棚を見ると、研究室の本棚だけあって、研究に関連しそうな野生動物に関する書籍や図鑑が多い。本棚に本だけではなく、骨格標本等があるのも面白い。
まずは、先生がボルネオのジャングルにどっぷりとはまるきっかけになった書籍を紹介していただいた。それが安間繁樹先生の本だ。安間先生はイリオモテヤマネコの生態・行動研究の先駆者だ。
本をみて気づいたのだが、どうやら松林先生はお気に入りの作家(研究者)の書籍を買いそろえる傾向にあるようだ。つまり作家買い。この作家の作品なら面白いに違いないと言うあの安心感。わかる。
このアニマル・ウォッチング日本の野生動物〜この列島に棲む113種の動物の野生の姿を追う〜は、まるで安間先生と一緒に日本列島を旅しながら動物観察の冒険に出かけているような一冊だ。松林先生もきっと、憧れの先生と一緒に本から本に冒険をしながら読んでいたのだろう。
冒険の書
それ以外にも、先生は実際に冒険に出た冒険家達の書籍がお気に入りだそうだ。星野道夫さんや立花隆さんなど、舞台は様々であれど、同じ冒険心を持った同士の本だ。
自分が何者でもなく、何でも出来るような、そんなわくわくを生み出してくれる本が並んだ。これらの文庫本は実際に各地に調査に行く時のお供にもなる。ジャングルに囲まれた調査地で眠りにつく前に読んだりするそうだ。
冒険に連れて行くと、面白いことも起こるんだよと先生が一冊の本を見せてくれた。
それがこの星野道夫さんの「ノーザンライツ」(新潮文庫)だ。一見普通の本に見えるが、横にするとあれっ、となった。
本を横から見ると、小さな穴があいている。誰かが針で明けたような穴だ。そして、しばらくページをめくっていくと、その理由がわかる。
虫に食べられている、犯人の姿はなかったそうだ。大切な本なのに、と思うかもしれないが、先生はジャングルにこの本を持っていって、食べられてしまうなんて、なんだかうれしかったとおっしゃっていた。こういう好奇心と適応力のある人が冒険にはむいているのかもしれない。
人生は冒険だ
現在は東京農業大学厚木キャンパスにいる松林先生だが、またきっと冒険の旅に飛びだしていってしまいそうだ。そんな先生が書いた冒険の書もある。
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先生の書籍も、先生が今まで体験し、実際にみてきた野生動物の生態等が詳しく記されていて、まるで先生と一緒に出かけているような錯覚を起こす。それはまさに、先生が憧れていた先生の書籍達のようにわくわくした。
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先生は、現地と書籍の森を冒険しながら実績を積んできた。今でも先生は本を開けば冒険の旅に出かけることが出来るのだ。そして、これら積み重ねや、つながりから、今、憧れの冒険家達と同じフィールドに立っている。あの、少年の日に憧れた幸島先生にも博士課程時代に指導教官として研究を見守ってもらったそうだ。すごく夢のある話だ。
憧れや夢は誰もが持つことが出来る、それを叶える権利も誰にも与えられている。その想いを実行するか、しないかは個人の選択だ。好きなものを突き詰める心があれば、人はいつでも人生という名の冒険の旅に出ることができるのかもしれない。
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