人は誰しも、自分の子どもには健康で逞しく育って欲しいと願う生き物です。多くのことに興味を持ち、好きなことを見つけ、幸せになって欲しい。それは親だけではなく、人類みんなの願いであるかもしれません。
その中には、自然や生き物などから生きる力を学んで欲しいと願っている人もいます。私です。私自身、農作業や自然観察をしていると、他の生き物の生命力から学ぶことが多いのです。子ども達にもその楽しさを知って欲しい、知ってもらうにはどうすればいいか、どう伝えればいいか、その道のプロに教えていただくことにしました。
子に過ぎたる宝なし
私事で恐縮なのですが、昨年姪っ子が生まれました。宝のように可愛く、家族の誰もがメロメロです。アプリで毎日のように写真が送られてくるのですが、社長の孫自慢かなと思うほど、母親が私に見せてきます。私も同じ写真が送られてきているのに。
そんな姪っ子には、ただ健康で、幸せでいて欲しいなと思います。存在してくれているだけで、愛しい存在、それが子どもなのです。多摩川源流大学のメインフィールドである山梨県小菅村にも「子は宝」という言葉があるほどです。
もちろん存在していてくれるだけで可愛い姪ですが、もし可能なら自然や農業に興味を持って、多くのことを学んで欲しいなと思います。完全にエゴのような気もしますが、私は自然や生き物から、生きることの素晴らしさ、力強さなど、多くのことを学んできたので、可愛い姪ともぜひ共有したいのです。
そこで、自然や生き物、農山漁村の様々な事柄を伝え続けてきたプロに、どうやったら自然や生き物などの、素晴らしさや楽しさを子ども達に知ってもらえるのか、聞きに行く事にしました。
一般社団法人農山漁村文化協会
やってきたのは、『現代農業』や『うかたま』、『季刊地域』などの雑誌、そして農山漁村の文化や技術に関する様々な書籍を出版している、一般社団法人農山漁村文化協会さんです。
プロ向けからこども向けの絵本まで、幅広く出版しており、農作業や自然に関わった人のある人なら「農文協」の名前を聞いた事がない人は、いないのではないでしょうか。1940年に発足し、農家に訪れた際に、見たり聞いたりした情報を反映した「農家がつくる雑誌」を出版してきた会社です。
農業に関心のある人はもちろん、今まで農業に触れた事のなかった人々が、地域や農業を知る事ができる書籍も出版しており、こども向けの本も数多く出版しています。根強いファンの多い出版社でもあります。
こども農業雑誌『のらのら』
そんな農文協さんでは2011年から2017年まで子ども向けの農業雑誌『のらのら』を発行していました。この雑誌の前身は『食農教育』という、育てること、食べることという、人の基本的な営みを実践している実践者の、知恵や工夫を紹介した雑誌です。
のらのらでは「のら」つまり人の生活の身近にある、畑や河原、野山、海辺などで、暮らしたり、遊んだり、お手伝いしている「のらぼーず(農業少年)」「のらガール(農業少女)」に、スポットライトをあてて紹介しています。
バケツ稲選手権などの、農に親しむ企画や、のらぼーず・のらガールの生活、身近な自然の遊び方などを紹介しており、大人が読んでもめちゃくちゃ面白かったのです。私も大ファンで、2017年に休刊が決まった際には、多くのファンが悲しみの声をあげました。
そんな素敵な雑誌を作っていた編集部の方に、お話を聞く機会をいただいきました。全国ののらぼーず・のらガールを発掘、取材してきた皆さんなら、きっと私の姪をのらガールに育てる秘訣を教えてくれるはずなのです。
大好きな雑誌の編集部の皆さんに会えるなんて、アイドルに会えた時みたいにうれしいです!
そうですか? ありがとうございます。
のらのらが休刊になった時は、全国ののらのらファンが悲しんでいましたよ!
私もアイドルの卒業宣伝を聞いたファン並みに悲しかったです
その声、もっと早く聴きたかったです!
のらぼーず・のらガールの育て方
皆さんにお聞きしたいのですが、ずばり「のらぼーず」や「のらガール」ってどうすれば育ちますか? どんな子が雑誌には登場していましたか?
私たちが取材してきたのらぼーず・のらガール達は農家のお子さんが多いんです
なぜかというと、私たち農文協では、毎日農家のもとに職員が伺い、雑誌購読や新刊の書籍を勧めるだけでなく、
農作業の工夫や知恵をお聞きしています。その集積が『現代農業』であり、農文協の様々な書籍になるわけです
なるほど。農家ひとりひとりと直接会って作られているんですね。その農家が子ども達に農業英才教育していると…
いえ、農家達は自分達であれこれ工夫して、作物や自然と向き合っているのですが、子ども達はそんなおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんの姿を見て、真似しているだけなんです
えっ! そうなんですか!
職員が農家に話を聞いていると「うちの子どもの方が現代農業の包みが届くのを待っている」とか「リビングに置いておくと先に読んでいる」という話を聞くこともありました
そういうご家庭に電話かけまくって、のらぼーず、のらガールを見つけ出したんですよ!
なるほど、子どものうちから現代農業を読んでいるなんて、ある意味農業エリート!
子どもたちは大人と一緒に現代農業を読んだり、試したりしていただいているようです。そうだ、各家庭のリビングに現代農業おきましょう!
それ一番の英才教育のような気がする!
取材した時に感じたのですが、お父さんやお母さん等の大人が、面白いと思うことを突き詰めていると、子ども達もそれを見ており、自分の面白いと思ったことを突き詰めているような気がします
そうそう、一緒にのらに連れて行って作業したり、楽しんだり。それが重要だよね
確かに。まず大人が楽しんで、子どもにその姿をみせるのは大切な教育かもしれないですね。農文協の職員の方も、農山漁村や自然が大好きで、詳しい方が多いですよね
そうですね。特にのらのら編集部には多かった気がします。のらのらの名物企画に「バケツ稲選手権」というのがあるのですが、本社の屋上で自分達でも育てたりしています
私は今『うかたま』という女性向けの雑誌を作っているのですが、その部署にいる、後輩と一緒にバケツ稲を栽培しています
そうそう、僕は現代農業チームのバケツ稲育てていて、看板雑誌として、うかたまチームには負けられない! 都会でも充分農にふれることはできます
そういう、皆さんの好きなものも紙面には現れていましたよね。大根をおもしろダイコンに育てていたり、実験しているページがあったり
そうですね、どの記事にも思い入れがあります。自分達で写真も撮影していたんです
のらのら魂
あー、うちの姪が大きくなる頃にはのらのら復刊して欲しい!
大丈夫ですよ! 僕たちがしっかりのらのら魂は受け継いで、各部署でも頑張っています
のらのら魂!
例えば私は農文協の代表雑誌『現代農業』を作っていますが、そこでバケツ稲をはじめ、のらぼーず・のらガールにも楽しんでもらえるよう工夫をしています
のらのらに出てくれていた山形ののらガールが、バケツ稲でチャンピオンになってくれていて、今は『現代農業』にも出てくれているんです。もう立派なお姉さんで
ずっと関わってくれる事にも、こどもの成長の早さにも感激しました。そうやってのらのら魂は受け継がれていくんだなーって
私ものらのら魂をうかたまに引き継いでいます。うかたまの2018年vol.50には春からトマトという企画でトマトをまるまる植えて栽培する方法を紹介しているのですが、
じつはこれ、のらのらでやった企画なんです。これを大人の皆さんにも見てもらいたくて
うかたまではビジュアルなどにもこだわっていて、そうやって、まずは素敵に思ってもらい、次にちょっとやってみようかなと思ってもらえると嬉しいです
まずはお母さんや大人の心をゲットするんですね!
そうです! そして、いつもの暮らしをちょっと豊かなものにしてみて欲しいですね。そばにある面白いものにちょっと目を向けてもらうというか
日常の中にこそ、面白いものってあるんですよね。それを子ども達と楽しむためには、まずは大人に面白がってもらうという
そうなんです!大人だからって全部知っている、できるわけじゃないですからね
農文協の絵本
農文協さんは、子ども向けの絵本もたくさん作っていますよね。しかも結構本格的な気がします!
そうですね、私は今絵本を作るグループにいるのですが、農文協が出している『そだててあそぼう』『つくってあそぼう』シリーズなどは、絵本ですが本格的です
私もこのシリーズ好きでたくさん持っています!実際これを参考にして、カイコ育てたりしました!
実際、農文協の絵本はこどもから大人まで幅広い年代の方に見ていただいているようです
わかる! 絵本ってこども用のイメージあるけど、実はそんなことなくて、私は全世代対応書籍だと思います
加賀美さんのオススメの、のらのら魂を感じる絵本はありますか?
はい! この『イチからつくる』シリーズです。『カレーライス』や『チョコレート』、『綿の糸と布』の3巻があります
あっ! これ面白そう!
面白いですよ! このカレーライスでは、探検家であり医者である関野吉晴さんが美術大学の学生たちと、野菜、お米、お肉、お皿など一杯のカレーに必要なものを全部自分たちで作ってみる過程が描かれています
お皿も! カレーライスって子どもに一番身近な食べ物なのに、確かにいちから作るとなると大変そう
そうなんですよね、いつも食べているものでも、実際にどうなっているかを知っている人は少ないんです。大人も一緒に読んで欲しいです
確かに、私みたいに都市に住んでいると、消費するばかりで生産する現場を普段あまり見ていないから、なんだか遠い世界のことのように感じますね
地域は教室、生活は教材
家庭や家の近所、近くの畑、すべてがこどもにとっては教育の場であるはずです。生活は教材で、先生も周りにたくさんいます
大人がその感覚さえ忘れなければ、のらぼーず・のらガールはこれからも増えていくんじゃないかと思います
そうそう! そして、リビングに現代農業やうかたま、農文協の絵本などをぜひ置いて、ご家族みなさんで楽しんでください!
家族みんなが同じレベルで面白いと思えることって確かに少ないから、大切ですね。姪に教えるために、まずはわたしが楽しむことにします!
あと、姪が遊びに来る時は、さりげなく現代農業リビングに置くようにします!
まずは大人が「のら人」になろう!
こどもに伝えるのは、情報量と見易さのバランスなど難しいことも多いらしく、試行錯誤することの方が多いそうです。しかし、農文協の方々に話を聞くと、本当に農業や自然、地域の文化が大好きで、それを伝えたくてしょうがないという、熱い気持ちを感じることができました。
動画のリンクはこちら→http://lib.ruralnet.or.jp/video/
面白いことは、遠くのどこかで、誰かが行っているわけではなく、私達の日常にこそあるものなのだと改めてわかりました。私も日々の生活の中で見つけた面白いものを、姪っ子と共有して、まずは一緒に楽しんでいけたらいいなと思いました。
取材協力
一般社団法人農山漁村文化協会
http://www.ruralnet.or.jp
農文協の本を買うならこちらで!
田舎の本屋さん
http://shop.ruralnet.or.jp
農文協農業書センター
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