オオカミというものがいる。我々がよく街中で見かける犬に似ており、近年は我々が言う、いわゆる犬はオオカミの亜種と考えられている。ユーラシア大陸などに住む「タイリクオオカミ」、北極圏に住む「ホッキョクオオカミ」など、世界中にオオカミは生息する。
かつては、日本にもオオカミがいた。「ニホンオオカミ」である。1905年を最後に捕獲記録は途絶え、今では絶滅したとされている。しかし、オオカミが生息していたことは間違いなく、多くの伝説が残っている地もある。今回はその1つを訪れた。
私とオオカミ
ニホンオオカミの剥製はこの世に5つしか残ってない。駆除に乗り出すほどの数が生息していたけれど、世界に5つしかないのだ。記録はそこそこあるけれど。そのうちの1つが国立科学博物館にある福島で捕獲されたメスの個体だ。
大きさは中型犬ほどで、オオカミと言われると、赤ずきんちゃんなどの影響なのか、怖いイメージを持つけれど、かわいくすら感じられる。グッボーイ! と言いたくなる風貌だ。メスだから、グッガールが正しいか。
ニホンオオカミは伝説によく登場している。そして、信仰の対象になることもある。日本書紀(720年)によれば、秦一族は稲荷信仰と同じように狼信仰をしていたとある。関東で狼信仰が有名なのは埼玉の三峯神社や、東京の武蔵御嶽神社だ。
ケーブルカーに乗って!
今回は東京・青梅にある「武蔵御嶽神社」を訪れる。最寄駅となる「御嶽駅」の改札にはオオカミがあしらわれていた。オオカミの地なのだ。ちなみに埼玉の三峯神社も今回の武蔵御嶽神社も山はだいたい同じ感じなので、同じオオカミたちが暮らしていたのだろう。
武蔵御嶽神社は御岳山の山頂に鎮座している。御嶽駅からケーブルカー乗り場行きのバスにしばし揺られ、ケーブルカーに乗り山頂を目指す。歩いても山頂には行けるのだけれど、ケーブルカーとかには乗りたいタイプなので、迷わず乗る。勢いよく乗る。
麓にあるのが「滝本駅」で、山頂が「御岳山駅」ということになる。片道600円、往復で買うと割引されるようで1130円。駅でケーブルカーを待っていると、自動販売機が目に入った。目に入らないはずがない。全部コーヒーなのだ。この辺りはコーヒー好きが多いのかもしれない。
ケーブルカーはキツそうだけれど、緩むことのないペースで急な山を登っていった。私は乗っているだけなので楽だ。これを自分の足で登ることになったら、強く、とても強く嫌だと言おうと思う。ケーブルカーがあるならばケーブルカーなのだ、人類は。
いま目指している武蔵御嶽神社が創建されたのは祟神天皇7年こと。つまり紀元前だ。そして、なぜオオカミが祀られているかといえば、簡単にものすごく簡単に説明すると、日本武尊がこの地で白狼により危機を救われたからである。この手の伝説は全国にあるけれど、簡単に説明すればそういうことなのだ。ご理解いただきたい。
オオカミを見る
日本武尊が甲州の方から上州に抜ける時に御岳山の奥宮を通りがかり、オオカミが出て日本武尊を苦しめた。ただ山の悪い神様が日本武尊を苦しめた時はオオカミが出て助けたらしい。好きな子に意地悪しちゃう小学生男子みたいなキャラだ、オオカミが。
しばらく歩くと鳥居があり、手水舎がある。面白いのは手水舎にあるのは人間が手を洗う場所だけではなく、犬が手を洗う場所もあることだ。残念ながら私は犬を飼っていないので、使うことはないが、犬がいれば洗ってあげたい。
本殿などに向かう階段の脇にはたくさんの講を記念する石碑のようなものが並んでいる。関東圏が多いように思えるが、多くの信仰を集めた証拠だ。ただこの時点で坂が急で、階段も多いので疲れていた。体を鍛えねばと思う。
拝殿は徳川の時代になってから、西の護りとして、東向きに改築された。赤が美しい。そして、この奥に本殿があり、そこにオオカミの狛犬が鎮座している。オオカミの狛犬ってややこしいけれど、オオカミも犬ではあるし、別にいいか。
オオカミというには可愛いけれど、「おいぬ様」とも言うので、その言葉の響きから考えるととても似合う風貌をしている。1783年に作られたブロンズ製のものだ。天明の大飢饉の原因となる浅間山が噴火した年だ。
武蔵御嶽神社にあるオオカミはこれだけではない。境内に「大口真神社」があり、そこにオオカミの狛犬がある。そもそも真神はオオカミの異名的なことなので、オオカミが祀られた神社ということだ。
日本武尊が直々に、道に迷った際に助けてくれた白狼に、ここに留まり、魔物を退治せよと言っている。つまりここに白狼が祀られているのだ。白狼、かっこいい。護符にもなっており、関東の古い家に行くと、見かけることがある。
築山もあり、そこにはおそらくこちらで一番古いと思われるオオカミの狛犬を見ることができる。片方は首がなくなっているけれど、もう片方が完全な状態で空を見ていた。犬が目を合わせる時は本来、敵意を感じた時らしいので、空を見ているのはいい気がする。
オオカミの護符を買う
オオカミを堪能したので、護符を買う。先にも書いたけれど、関東ではよく、と言っても古い家などでだけだけれど、オオカミの護符を貼っている家を見かける。資料館などでも展示されている。その護符を買うのだ。
以前からここの護符が欲しいと思っていたのだけれど、チャンスがなくて、買うことができなかった。存在は知ってはいたけれど、来ることができなかったのだ。もう買うしかない。というか、これを買うために来たのだ。
先の「大口真神社」の名前が入っているのがわかると思う。つまり白狼なのだ。狼だけでもカッコいいけれど、白狼と言われるとよりカッコいい気がする。護符のオオカミは黒いけれど、逆光ということにしたい。
これで満足。大好きなオオカミの狛犬を見ることもできたし、お目当ての護符も手に入れることができた。しかも、おみくじをひくと、大吉だった。素晴らしいではないか。私の後ろにはもはや白狼がいるのだ。そこんとこよろしく、なのだ。
オオカミの護符
以前からオオカミが好きで、それは生き物としてもそうだし、信仰の対象としてもそうだ。カッコいいしロマンを感じる。ニホンオオカミ自体も実はまだ生きている説もあるし、ロマンの塊。私とニホンオオカミはロマンと覚えていただきたい。