初体験というものがある。子供の頃は何をしても初体験ということが多いけれど、大人になるにつれ、初体験は減ってくるものだ。身近なものはすでに体験済みで、新たなものにチャレンジということが減ってくるのだ。
そこで今回は大川エツを食べるという初体験を行おうと思う。これを書いている私(地主)は、31歳だけれど、大川エツを恥ずかしながらまだ食べたことがない。年齢からか、エツという名前に接点がない生活をしていたのだ。ぜひ初体験をしたいと思う。
大川エツに会いに行く
それは初夏の陽気を感じる朝だった。梅雨にまだ入る前の時期だけれど、外に出れば汗ばむ1日。そんな日があるのだ。私は入念に歯磨きを行い、ミント系のガムを噛みつつ、車に乗り込んだ。大川エツに会いに行くためだ。
正直に話せば、少しだけ怖さもあった。私は31歳だ。子供の頃のように知らないものにチャレンジするということに恐怖を覚えるのだ。しかも相手とは初対面である。エツ。聞いたことはあるかもしれないけれど、出会ったことはないのだ。
大川の魅力
エツを食べることができるのは、福岡県大川市である。家具の生産高日本一で、大川市に入ると家具屋さんや家具の看板がよく目に付いた。市の西部には筑後川が流れる。かつては国鉄佐賀線が走り、筑後川を筑後川昇開橋により福岡と佐賀を結んでいた。
また先の大川駅跡地のような場所も残っている。佐賀線は1987年に廃線となったけれど、筑後川昇開橋のように観光地資源として残っていることもあるし、大川駅の駅前は、今は何もないけれど「駅前」として名残が残っていたりと、探して歩くと楽しい。
また国指定になっている旧吉原家住宅や、地元では「おふろうさん」と呼ばれ親しまれている「風浪宮」など、ゆっくりと時間の流れる大川をエツに会う前に散策した。小さな神社に小さな鳥居があったりと散策は楽しいもので、日差しに汗ばんでしまった。
大川エツを食べる
散策を終え、汗ばむ私は、エツに会うために昭和35年創業の老舗「東すし」に私は向かった。
そこで出会ったのが湿り気を持ったエツだった。私の前に裸で姿を現したのだ。もちろん私も興奮を覚えずにはいられなかった。
エツは魚である。日本では有明海にだけ生息し、5月から7月がエツ漁のシーズンだ。筑後川で獲れる魚で、レッドリストに掲載されるなど、非常に貴重な魚だ。傷みが早く基本的に大川市に来ないと食べることができない。
エツは魚で、それを料理しているので湿っているに決まっているのだ。唐揚げは違うけど。火照っていると表現してもいいかもしれない。そして、私も散策で湿っているけれど、火照ってもいる。だって、美味しそうなのだ。
驚くほど臭みがない。癖もない。食べやすい、美味しいと素直に言える魚だった。脂っこくもなく純粋に美味しいのだ。大川市では昔から食べられてきた魚だ。昔は漁師さんからもらって、各家庭でも普通に食べていたそうだ。
弘法大師が葦の葉を一枚取り、川に投げ入れるとエツになったという伝説もある。それを伝えるための石碑もあるのだ。また大川市を歩くと多くの場所でエツという文字や絵を目にする。エツの町なのだ。
エツの町
エツ料理はどれも美味しかった。すっかりエツファンである。「大川エツ」はぜひ食べるべき食材だ。骨が細かくハモのように骨切りをしなければならない。先にも書いたように傷みも早いので、大川市やその周辺の町でないと味わうことができない。幻のような魚だ。
ただ大川市では普通なのだ。ふらりと寄った地元のスーパーの魚売り場を見てみると、刺身用と、骨切りが施された唐揚げ用のエツが売られていた。今も地元では普通の魚のだろう。
エツの漁期は5月1日から7月20日まで。その期間しかエツを食べることができない。しかも、大川市周辺でしか食べられない。別の地域の人にとっては幻であることに変わりない。ただ食べるべきなのだ。大川エツを。人の名前みたいですよね、大川エツ。
足が速い大川エツ
ということで、男31歳にして大川エツを食べるという初体験を行った。結果としてはチャレンジしてよかったと思う。美味しいのだ。幻感があるので優越感もあっていい。このような初体験を今後もしていきたい。次は新垣結衣を食べる、とかにしたい。
福岡県大川市
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