「研究者の本棚には、宝石よりも価値のある宝が眠っている。」イタリアの詩人がそんなことをいったかどうかは知りませんが、私はそう思う。その本棚には宝石よりも重要な、知識と言う名の宝が眠っているのだ。
そこで、研究者達の本棚を訪ね、おすすめの本を紹介してもらうことで、その知識を我が物にしようと思う。
東京農業大学オホーツクキャンパス
東京農業大学には世田谷、厚木、オホーツクとキャンパスが3つあるが、今回はオホーツクキャンパスの美土路知之教授を訪ねた。
オホーツクキャンパスは北海道網走市にあり、生物生産学科やアクオバイオ学科、食品香粧学科など、2学部4学科ある。農業や漁業等を含め、地域産業の経営や商品開発等を行っている。美土路先生がいる地域産業経営学科でも地域の食と農について研究している。
地域の食について考える
美土路先生は大学で農業市場学を研究している。農業生産から流通、加工まで、農業に関わる産業や、農業のありようを考える学問だ。
また、最近ではイタリアのスローライフ、スローフードや地域の地産地消などの研究が主で、地元の美味しい物をたくさん知っている先生だ。
今回、先生は取材をうけるにあたり、おすすめの本や研究で使う本を選抜してくださっていた。見ておわかり頂けるように部屋中本に囲まれていて、おすすめを選ぶのは大変だったそうだ。
長年、消費者にどのような形で食が提供されるのか研究されていた先生の本棚には、時代を反映する食の本が多く並んでいた。
先生の本の選び方
先生の本の選び方は、興味のある分野の本は一通り全部読む、だ。そのため、先生の本棚は先生が研究されてきた歴史が一目でわかるように同じ分野の本がまとまって並んでいる。
例えばアメリカのファーストフードや流通について研究していたときはその関連本が、現在研究しているイタリアのスローフードならスローフードやイタリア料理のレシピ本などできるだけ多くの関連本を集めている。
多くの関連本を読むことで、知識に偏りがでることなく、幅広い目で研究を行うことが出来るそうだ。単純に先生の興味や好奇心が強くて「読み漁る」という行為に向かわせるのかもしれない。
おすすめの本
そんな先生の膨大な本の中で、好きな本、おすすめの本を聞いてみた。
まずはこの2冊を紹介していただいた。島田彰夫さんの「食とからだのエコロジー「食術」再考」(農山漁村文化協会)と「食と健康を地理からみると−地域・食性・食文化−」(農山漁村文化協会)だ。
日本人の食文化、食料、料理法等を体系化し、現代の生活にあわせて見直すことで食、農、地域環境などを結びつける「食術」について論じてある本だ。
先生は農業や食はどのように地域と関わっているのか、豊かな生活とは何か、地球に存在する生命として農や食をどのように捉えるべきかを考え、この本で学んだ。
次はこの本。イタリアの地方に伝わる料理をまとめたレシピ集で、眺めているだけでも楽しめるそうだ。レシピ集を読むだけでイタリアの風を感じる。
イタリアの地方料理−北から南まで20州280品の料理−(柴田書店)
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食や農、地域以外に先生の好きな本ありますか?と聞いた所、「ハインリヒ・ハイネの詩集」という素敵な答えが返ってきた。研究者はロマンチストが多い気がする。特に「バラ、ユリ、鳩、太陽」という歌曲集「詩人の恋」に収録されているおすすめの恋の詩を教えていただいた。
イタリアからドイツへ、先生の本の旅は続く。そして、先生の一番好きな作品が次に登場した。「男はつらいよHDリマスター版プレミアム全巻ボックス」である。先生が大学生の頃から好きな作品である。
先生は山田洋次監督の作品が好きで、優しい視点で人をみることが出来る人だとおっしゃっていた。寅さんが、旅した地域で人々とふれあう姿をみて、人と実際に会うことの重要性を学んだそうだ。
「男はつらいよ HDリマスター版」プレミアム全巻ボックス コンパクト仕様 [DVD]
人に会うことで地域や食を知る
先生も研究する際に、実際に人に会って知るということを大切にしている。実際に見に行き、会いにいくことで誰がどのように関わり、どのように作られているのかを学ぶことが出来るのだ。先生は授業でも、学んだことを体験できるツアーや試食会など、実際に体験できる仕組みを取り入れてきた。
寅さんが旅するように、先生も本の中を自由に旅し、それを確かめに世界中を旅してきた。そうして出会った人や物を研究の糧としてきた。
それは今、先生の授業を受けている学生達に受け継がれ、これからも続いていく。楽しくて壮大な旅はまだまだ続きそうだ。
筑波書房
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