チャンスはあったけれど、そのチャンスを掴めなかったということがある。東京の人が逆に東京タワーに登らないように、行こうと思えば行けるのだけれど、行ったことがないというものが存在するのだ。
今回は東京都青梅市にある「へそまんじゅう」を食べに行く。よくそこを通るのだけれど、10年ほど前から存在を知っていたけれど、食べたことがなかった。もう食べに行こうと思うのだ。チャンスを自分でもぎ取るのだ。チャンスではなく、オポチュニティだ。
数年越しの夢の名は「へそ」
「近所にあるんだけど行ったことがないんだよね」は、日本人がよく言うセリフ7位に入るのではないだろうか。何だかんだで、よく言っている。人と話すことがあると必ず言っている、まである。それくらい我々は近くのチャンスを逃して生きているのだ。
私の場合は、それが「へそまんじゅう総本舗」である。東京は青梅の日向和田に「へそまんじゅう」なる饅頭を売るお店があるのだ。私はこのお店の前を車で何度も、もう数えられないほど走っている。その度に「帰りに買おう」と思うのだけれど、毎回帰りは遅く、お店は閉まっている。
10年ほど前から存在は確認していたと思う。そして、いつか食べたい、いつか食べようとだけ思い、食べずにずるずると過ごし今日に至った。チャンスがありすぎるから、食べないパターンだ。ちょっと車を止めて買えばいいのに、駐車場もあるから買えるのに、買わなかったのだ。
行くで、へそまんじゅう
何度も前を走っているけれど、「へそまんじゅう」をその日のメインに据えたことはなかった。据えなかったから食べることがなかったのだけれど。でも、へそまんじゅうへの想いは、恋愛ドラマの9話くらいの主人公ほどになり、もうへそまんじゅうを買うためだけに電車に乗った。
いつもは青梅の奥の奥の方に用事があるので、車を使うのだけれど、今回はへそまんじゅうだけが用事なので、電車で向い、「日向和田駅」で電車を降りた。無人駅ではあるが、駅舎は綺麗で水引があしらわれていた。私を祝福しているのではないだろうか。
目指す「へそまんじゅう総本舗」は、駅から歩いて3分ほどの場所にある。近い。とても近い。車でなくても来られるのだ。だったら、電車でくればよかった、10年前に。
夢が叶った!
本当はここに至るまでの道で、私とへそまんじゅうという、ハリウッドの感動映画くらいにへそまんじゅうへの思いを書きたかったけれど、駅から徒歩3分なので、それを書く暇もなかった。10年の思いは3分で叶うのだ。家から日向和田駅までは1時間くらいかかったけど。
敷地内には「へそのを観音」もあった。手を合わせた。その横には駅の看板のようなものがある。へそまんの次が新宿だ。近いのだ。その下には「50粁」と書かれているので、新宿まで50キロなわけだけど、時速5キロで歩けば10時間だし、時速50キロで歩けば1時間。近いのだ。
私のおへそはベージュだ。ちなみにその奥というから下というか裏というか、要するに腹は白である。腹黒い人もいると思うけれど、私は腹白なのだ。完璧なる白。一度、私の腹を見た気象庁が、初雪が降りましたとニュースにしたほどだ。それほどに私の腹は白いのだ。
へそまんじゅうには白と茶色がある。白は白砂糖が使われ、茶色には黒砂糖が使われている。中の餡子はどちらも粒あんだ。中は黒いのだ。ある意味、私の逆と言える。私の中は白いから。一度、海で泳いでいる私の腹を見た海洋専門家が幻のシロイルカとニュースにしたことがあるほどだ。それほどに私の腹は白いのだ。
箱でも買うことができるし、バラでも買うことができる。その場で食べるバラは温かい。ふわふわの温かいへそまんじゅうが現地なら食べられるのだ。私ほどに温かいへそまんじゅうだった。私は温かい人間なのだ。一度、私のあまりの温かさに暖冬の理由ではないかとニュースになったこともある。それほどに私は温かい人間なのだ。
へそまんじゅうの存在を知った時から、へそまんじゅうを買って、自分のへそに持ってくる、という夢があった。それが叶った瞬間だ。夢は叶うのだ。諦めないで欲しい。私は10年越しの夢を叶えたのだから。
へそまんじゅうの歴史は古く、1563年に難攻不落の辛垣城を陥落させる時に十勇士が兵糧の饅頭を腹巻に包んでおいたことに由来する。本当はもっとちゃんと書いてあるのだけれど、漢字が多くて断念した。
要するに縁起が良く、歴史あるまんじゅうが「へそまんじゅう」ということだ。そんな饅頭を10年も前から知っていたのに食べていなかったわけだ。だから、私のここ10年は特になにもない人生だったかもしれない。食べなければならない。
初めて食べた。へそを食べた。甘くてふわふわで美味しい。しつこくない感じ。あっさりとは違うけれど、切れ味のようなものがある。つまり美味しいということなのだ。とても美味しいということなのだ。
黒糖の素晴らしき甘みが体を満たす。私を満たしていくのだ。10年間という私の空白を満遍なく埋めていく。日本茶を飲みたくなるような味だ。誰もがそう思うだろうけど、そういう味。美味しいのだ。こっちは10年越しだからね、涙さえ流していい。
へそまんじゅうを買うと、奥多摩一周というポストカードと、子盗りやまんばの絵本をくださった。絵本はちょっと怖いから知り合いのお子さんにあげようと思う。ポストカードは自宅に飾ろうと思う。10年かかったけれど、もっと早く行けばよかった。思い立った日に行かなければ、へそを取られるかもしれないのだ。
約束のオポチュニティ
知っているけど行ったことがない、というパターンは本当に多いと思う。でも、それはもったいない。今回のように。10年前に食べときゃいいのに。1個108円なんだぜ、安いじゃない。問題は、青梅に最近はそう行かないことだ。
へそまんじゅう総本舗
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