皆さんは「景観」という言葉を聞くとどのような景色を思い浮かべるでしょうか?都会のビル群や美しい建物がたくさんある景色でしょうか?南の島の青い海や白い砂浜でしょうか?田んぼや畑の景色でしょうか?
最近では棚田や茶畑などのように人々の生活・生業が「文化的景観」といい注目を集めているので聞いたことがある人もいるかもしれませんが、私達の身近にあるのに、普段の生活では特に意識をしたことがないという人も多いのではないでしょうか?
農大造園科学科卒業
実は私は農大の造園学科という景観について学ぶ学科を卒業しています。人は皆「あのとき真面目に勉強していれば・・・」と後悔するものでしょうが、私ももれなくそうです。素晴らしい農村景観に出会う度、「あのとき先生の話をちゃんと聞いておけばよかったな・・・どうして自分は授業中に消しゴムはんこを彫って遊んでいたのだろうか・・・」と反省しています。
反省するだけならサルでも出来るそうなので私はサル以上を目指し、素晴らしい農村景観を探し何がどういいのか私の視点で皆さんにご紹介することにしました。
景観とはなにか
今回ははじめての景観のお話なので少し景観とは何かについてご説明します。
農大造園科学科の麻生教授によると「景観をあえて定義するなら『地域環境の視覚的側面』ということができます。私達は五感を通じて地域の環境を理解します。特に視覚はその大半を占め、私達の情緒に直接働きかけるものであります、地域環境に関する予備知識がない人でも最初に環境情報を得るのが景観ということになります」とのことです。少し難しい・・・。
風景=第一印象
簡単に言うと景観とは一番はじめに得るその地域の情報とご理解下さい。つまり人間で言う第一印象です。この第一印象がその土地の魅力であり、印象を決める重要な要素となります。
また、田んぼなどの日本人のDNAに刻まれている景観には人々の生活が息づいていて、視覚だけではないお米のニオイや風になびく音等も含まれてきます。私はこのようになつかしいなーなどの人々の感情や想いがのった景観を風景と呼び分けています。よく日本人の原風景などといいますよね。はじめて行ったのになんだか懐かしい。そんな経験は誰しもした事があるのではないでしょうか?
心に残る風景を探す
私の独断と偏見で、日本各地の良い農風景を紹介しようというこの企画。第1弾はやはり大好きな山梨県小菅村の風景を紹介したいと思います。
山梨県小菅村は90%が山林に囲まれた山間の村です。村に入ると山が迫るようにあり、手で触れそうな程です。そんな山に囲まれた小菅村ならではの農風景が「橋立地区にある掛け軸畑」です。皆さん山の傾斜を利用して作られた棚田や棚畑はご存知だと思いますが、小菅村の畑は山の斜面にはり付いたように作られているのが特徴です。
一等地は作物のために
日当りの良い山の南側斜面に作られたこの畑は、村の一等地は畑にという小菅村に住む人々の思いが見られます。傾斜が40度程あるので、スキーのジャンプ台のような角度で、小菅村の石の多い土や肥料など色々なものが下に落ち、流れる恐れがあります。そこで、土地の所有権が縦割りになっています。それによって掛け軸を広げたような模様が見られるのです。
こんにゃく長者
見ての通り水が溜まる事はないので、水はけのよい土地に適した作物であるこんにゃくやそばが昔から作られてきました。
特にこんにゃくは通常だと毎年掘って保存しておく必要があるのですが、その必要がないため作業も比較的簡単で味のいい物がとれると昔から多くの家庭で作られてきました。
こんにゃくの黄緑色の美しい葉が畑に広げられると本当に反物を広げたような美しさがあります。
人の営みが作る風景
作物ごとに違う色が広がるので下から見上げるのも美しいのですが、畑の上から遠くの山並みと人々が住む集落、畑を一度に俯瞰するのも大変美しいです。
たまに大きなかごを背負った村民の方に出会います。村民の皆さんはみな、無駄のない美しい所作で作業をしていて、風景にとけ込んでいます。
人々の営みが見えるからこそ、なんだか懐かしく美しいのだと思います。
この風景を人の第一印象で例えると
とにかく最初に見た時のインパクトが大きく、人でいうと「ぱっと見でわかるすごい和服美人」といったところかなと思います。