犬と言われるとペットを思い浮かべる。ポチやクッキーなどと名付けられ、飼い主が帰ってくると尻尾を振って玄関までお出迎えをしてくれるのだ。抱きしめたくなるような愛らしさ、それが英語で言えばドッグだ。
しかし、猟犬と呼ばれる犬もいる。猟師が猟で使う犬のことで、シカやイノシシ、場合によってはクマをも追いかけて倒す。そんな猟犬を紹介したいと思う。
猟犬は獰猛
街中で見かける犬はどれも愛らしく、ドッグランなどに行くと、ボールを追いかけていたりする。名前を呼ぶと戻って来たり、投げたボールを飼い主のところまで持って帰ってきてくれたりもする。犬にはそんなイメージがある。
そんなかわいいイメージとは真逆の犬がいる。「猟犬」である。シカなどを狩る猟で使う犬のこと。ボールではなくシカを追いかけ、ボールを飼い主のところに持って帰るのではなく、シカなどの獲物を持って飼い主のところまで帰る。それが猟犬である。
猟犬の役割は、猟師がかまえる鉄砲の射程圏内まで獲物をおびき出すこと。しかし、犬だけで決着が付くこともある。獲物を鉄砲の射程圏内におびき出す前に、犬が獲物をかみ殺すのだ。百十の王「ライオン」と変わらない。それが猟犬だ。
猟犬コレクション
都心では猟犬を見る機会が少ない。獲物がいないので猟犬を飼う理由がないだ。しかし、猟が行われる村に行くと猟犬を見ることができる。今回は山梨県にある小菅村の猟犬を見せていただいた。
まず紹介するのが5歳の猟犬「エル」だ。今までに50頭を越える獲物を仕留めている。才能があり、とても足が速い。無駄な肉がついおらず、猟犬としては理想的な肉体と言える。凛々しいその瞳は常に獲物を見据えている。
猟に必要なものは鉄砲の腕ではない。まず犬であり、次に体力、最後に鉄砲の腕なのだそうだ。猟が成功するか否かは猟犬が握っていると言ってもいいかもしれない。また猟犬は特別に何かを教えるのではなく、親犬から子犬へとその技術が受け継がれる。猟犬一族なのだ。
このビッグはもう10歳ということで、引退間近な猟犬だ。猟犬として理想的な姿をしている。一部の神社にはオオカミの狛犬というものがあるが、もはやそちらに近い気がする。猟犬はオオカミなのだ。
天才猟犬
獲物を狩るという都会の犬たちが忘れている野生を猟犬は持ち合わせている。中には山道を7時間も走り続ける猟犬もいる。猟犬にも才能が必要なのだ。その才能が小菅一と言われているのが「ミッキー」と「ミニー」だ。ある意味、名前勝ちしている。
今までに50頭を越える獲物を仕留め、生まれて半年で猟に出たという生え抜きの天才猟犬である。普段は大人しいが、獲物を見つけるのが上手く、みつければ、その運動量で追いつめる。獲物からすれば見つかったら最後なのだ。
猟犬は大きく分けると二種類存在する。洋犬と日本犬だ。洋犬はハウンドと呼ばれる種類が多い。ハウンドにもプロット・ハウンド、ブルーティク・クーンハウンドなどがいる。人気は洋犬だ。日本犬に比べると足が遅く、猟犬だけで決着が付くことが少なく、鉄砲の射程圏内まで獲物をおびき寄せてくれる。
トラは10歳の雄犬。昔イノシシに尻尾を噛まれ二日間の入院をしたことがあるそうだ。ちなみに猟は複数の猟師で一緒に行われる。仕留めた獲物はその人数でキチンと均等に分ける。そして、もちろん仕留めた猟犬の取り分もある。猟犬も頑張るわけだ。
かわいい猟犬
先述の通り猟犬は獰猛だ。しかし、そうでない面も持ち合わせている。そこは我々が知るペットしての犬と変わりない。人間が大好きだったりするのだ。獲物に獰猛で、人間にデレデレ。ギャップである。恋愛にはギャップが一番大切と聞く。猟犬はそれを持ち合わせている。
ザ・犬小屋に猟犬が入っている。ルルという名のこの猟犬は3歳。今までにやはり数十頭は仕留めているそうだ。なのにザ・犬小屋。さらに初めての人を怖がるという、お前マジか! と言いたくなる性格だ。猟では見ることのできない一面。ギャップだ。
人が近づくとどの猟犬もよく吠える。それは威嚇して鳴いているのではなく、人を見て嬉しくて鳴いているのだ。もうタケコプターのように尻尾を振っている。少し浮いていた、と言ってもいいかもしれない。なでるとうっとりする。
猟犬としての活躍期間は様々で、半年で猟に出るものもいれば、10歳でも現役バリバリで猟をする犬もいる。もちろん中には例外もいる。猟犬として飼われているが、猟に出たことのない猟犬も存在するのだ。それはもはや猟犬ではなく、犬だ。
「ギン」はもう10歳になる猟犬だ。ただし飼い主曰く「もはやペット」だそうだ。日本犬の猟犬は紀伊犬や甲斐犬が一般的だ。洋犬より足が速いのが特長。小菅村では洋犬の活躍が目覚ましく、ギンはもはやペットなのだ。
飼い主さんに猟犬の話を聞くと、「足が速い」とか、「あの時は大変だったよな」と犬に話しかけたり、「50頭は仕留めた」などと一頭ごとにエピソードを教えてくれる。ただギンに限ったら、「もうペット」と言っていた。猟犬と言ってもいろいろいるのだ。