ガイドブックというものがある。旅行に行ったりする時に役立つもので、その土地の美味しいお店や、名産品を売るお店などが記された本だ。その本に載っているお店に行けば、間違いないのだ。
さらに間違いない方法を発見した。50年前に出版されたガイドブックに載っているお店に今行けば、そのお店は間違いなく美味しいのではないだろうか。不味かったりすると残っていないはずだから。早速行ってみようと思う。
約50年間のガイドブック
ガイドブックには旅行者用と、その土地に住んでいる人用がある。旅行者用は観光地に特化したものが多く、その土地に住んでいる人用は、生活がより楽しくなるような、郷土料理ではない、生活の中にある料理店などが記されている。
昭和43(1968)年に出版された東京・小金井市のガイドブックを手に入れた。小金井市といえば、中央線沿線にある街で、東京都のほぼ中央に位置している。映画「千と千尋の神隠し」のような世界観が楽しめる「江戸東京たてもの園」や、桜の名所として知られる「小金井公園」がある場所だ。
このガイドブックは、観光客向けではない、小金井で生活する人に向けて出版されたものだ。中を見ると飲食店はもちろん、木材店や、自動車教習所の情報が載っている。観光客が絶対に必要としないガイドブックだ。
だからこそ、実は知られていない名店などに出会えるかもしれない。ガイドブックは基本的に毎年出版される。常に新しい情報が載るけれど、いまこの昔のガイドブックに載っているお店があれば、間違いなく名店だ。だって、50年前のガイドブックなのだ。
小金井の観光
昭和43年に出版されたガイドブックを持って武蔵小金井駅にやってきた。昭和43年といえば、日清から「出前一丁」が発売され、「郵便番号」が制定され、集英社が「少年ジャンプ」を創刊した年だ。今では当たり前が始まった年。随分と昔だ。
武蔵小金井駅からすでに当時とは大きく変わっていた。網走刑務所から出所して地元に戻ってきた人が降りるような情緒ある駅から、21世紀のような駅になっている。銅像の位置から察するに、駅の位置も少し変わっているようだ。
ただ当時のガイドブックにも載っている銅像はいまも健在だ。今も昔も髪をかきあげるような仕草をしている。駅が高架になって場所がずれたようだけれど、銅像は今も昔も駅を見つつ、髪をかきあげているのだ。いい女、みたいな仕草だ。
このガイドブックの表紙を飾っている「公会堂」は、現在は「イトーヨーカドー」になっている。小金井は随分と変わったのだ。「武蔵野郷土館」も今は「江戸東京たてもの園」に変わっている。飲食店などはどうなっているのだろうか。
甘味は蕎麦へ
ガイドブックには飲食店や小売のお店も載っている。小金井に住む人たちが行くお店が載っているのだ。小金井の名物のお店ではないけれど、日常にある美味しいお店が見つかるのではないだろうか。
まずが北口商店街にある「味のつちや」というお店に行ってみようと思う。たまたま開いた75ページの先頭にあったので行くことにした。甘味と軽食のお店で、あんみつやしるこ、蕎麦やうどんを食べることができるそうだ。
住所を見ると西友ストアー西隣と書いてある。この辺りは、駅が新しくなったり、火事が起きたり、道を拡張したりなどで随分と変わっている。今も残っていれば、それは間違いなく美味しいお店なのではないだろうか。
写真とは外観が変わっているし、名前も「そば処つちや」になっているけれど、「つちや」という名前は残っている。このお店はガイドブックのお店なのだろうか。偶然、「つちや」というお店なのだろうか。
「そば処つちや」はガイドブックにある「味のつちや」だった。17年ほど前に建て替えて今のビルになり、45年ほど前に甘味をやめて、蕎麦屋になったそうだ。当時から蕎麦はあったので、蕎麦に絞った、と言った方がいいかもしれない。
もともと店主が甘味処で修行をし独立して、このお店を開いたそうなのだけれど、甘味は季節ごとの商品を作ったりで大変で、その後、自力で蕎麦を勉強して、蕎麦屋になったそうだ。自力で蕎麦を始め、今も残っているということは美味しいに違いない。
間違いない美味しさだ。近所にこういうお店があるといいな、と思う。だって、美味しいのだ。特別高いわけでもないのに、歴史ある間違いない蕎麦を食べることができるのだ。そんな情報を知ることができるのが、昔のガイドブックの魅力だ。
ないお店も多い
「つちや」はあったけれど、当然ないお店も多かった。地元の人の話では、大きなマンションが建ったり、駐車場ができたりで、お店がなくなっているようだ。約50年というのはそのような変化が起きる時間なのだ。
「江梨花」は4トラック・ステレオ・テープ演奏を楽しめる純喫茶だった。ただ現在はマンションになっており、一階には「ワイモバイル」が入っている。当時はなかったサービスだ。「とらや椿山」は小金井には無くなっていたけれど、阿佐ヶ谷には今もある。
「中川米穀店」は現在、ファミリーマートになっている。ただし、オーナーは中川さん。70年ほどの歴史のあるお米屋さんで30年ほど前にファミリーマートになった。コンビニとしても歴史を感じる。
痕跡がある
場所が変わって営業中というお店もあった。イトーヨーカドーなどができて、その中にお店が入ったパターンだ。たとえば、北口大通りにあった「前田時計店」は現在、イトーヨーカドーの中にある。
和洋菓子のお店「亀屋」もそうだ。おそらく当時は北口と南口をつなぐ踏切の近くにあった。「ジャノメ通り」と呼ばれる商店街の横にあったけれど、現在は別の場所にある。小金井には蛇の目ミシンの工場があったので、ジャノメ通りがあったのだ。
亀屋のページを見ると、欧風銘菓「フリアン」と書かれている。心惹かれる名前だ。声に出して言いたい。お店は今もあるけれど、フリアンは今もあるのだろうか。欧風銘菓だけれど、今もあれば50年はあるわけだから、そろそろ日本銘菓なのではないだろうか。
フリアンは今もあった。「チーズクリーム」と「レモンジャム」の2種類があったので、両方を買って、「ジャノメ通り」を歩いて、「蛇の目ミシン」の工場を目指した。このガイドブックが出た当時は、小金井に工場があったのだ。
残念ながら今は蛇の目ミシンの工場は小金井にはない。20年ほど前に工場がなくなっている。その頃の名残が今も残っているのがこの通りなのだ。私が小学校で使ったジャノメミシンもここで作られていたのかもしれない。
蛇の目ミシンの工場は現在、マンションや公園、リサイクル事業所などになっている。空が広く見える場所だ。横には高架となった中央線が走っている。ここで先ほど買った「フリアン」を食べて、小金井の昔のガイドブックの旅を終えようと思う。
昔の魅力は今の魅力!
約50年前のガイドブックで東京・小金井を歩いた。当時と変わっているところが多かったけれど、変わらないものもあった。その両方に出会えて嬉しいのが昔のガイドブックのよさだ。残っていても嬉しいし、変化があっても嬉しい。時代を感じることができるからだ。もっとも昔より栄えているらしく、家賃が高そうで住めないと思うけれど、私では。
50年前のガイドブック小金井マップ(ここをクリック!)
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