日本海というものがある。新潟や富山、石川など、太平洋に面していない地域の多くは日本海に面している。バカみたいな説明をしてしまった。でもそういうことなのだ。日本海に馴染みがない人は日本海といえば、荒れ狂うイメージがあるのではないだろうか。
太平洋側に住んでいると日本海を見たくなることがたまにある。太平洋も日本海もどちらも海ではあるけれど、日本海には波の谷間に命の花がふたつ並んで咲いている気がして、憧れるのだ。ということで、鈍行だけで見に行こうと思う。
青春18きっぷで日本海
いつも見ている景色と違う景色を見たい、とは誰もが思うことではないだろうか。だから人は旅に出るのかもしれない。夏は旅に適した季節だ。暑いので服もTシャツくらいで荷物も少なくていいし、夏休みもある。旅の季節である。
私も旅に出たいと思う。日本海を見たいのだ。上記の写真の後ろに見えるのは多摩川だ。羽田の方へと流れ東京湾へと注ぐ。ざっくり言えば多摩川とは太平洋なのだ。だからなのだろう、日本海が見たいのだ。
そこで太平洋側に住む私だけれど、日本海を見に行くことに決めた。でもお金はないので「青春18きっぷ」だ。青春18きっぷは春夏冬のそれぞれの期間だけ発売される、基本的には鈍行にしか乗れない切符だ。乗り降り自由のきっぷで安いので大変嬉しい切符と言える。
青春18きっぷはJRしか使えない。私が住む狛江は小田急線しか走っていないので、狛江駅から新宿駅までは普通にお金を払う。ちなみに青春18きっぷは1日乗り放題を5回利用可能な切符となっている。値段は「12,050円」。1日2,410円。すぐに元が取れる。
今回は新潟駅を目指す。新潟駅に行けば日本海を見ることができるはずだ。太平洋側の東京・狛江から日本海側の新潟へ。鈍行のみを使って太平洋側から日本海側の間にある街や山を突っ切る感じだ。ちなみに狛江駅から新潟駅へは新幹線を使えば約3時間、値段は11,200円ほどだ。
青春18きっぷの旅が始まる
新宿駅に着いたらいよいよ「青春18きっぷ」の旅が始まる。自動改札機は通れないので、駅員さんがいるところで青春18きっぷを見せてハンコを押してもらう。今後は改札を通る場合は青春18きっぷを駅員さんに見せるだけだ。
まずは高崎駅を目指す。目指すと言っても私は乗っているだけだ。特にすることはない。青春18きっぷとはある意味では「堪える」ことがポイントになる。新幹線を使えば3時間だもの。でもね、青春18きっぷは鈍行だけだから、狛江から高崎駅まででほぼ3時間かかる。
ちなみに先の写真でもわかるように私は首からケースに入れて、青春18きっぷをぶら下げている。失くすのが怖いからだ。首から下げていれば失くす可能性は減る。カッコ悪いとは思う。でも、失くす方が怖いのだ。だって12,050円もしたんだぜ。みんな首から下げた方がいいよ。
高崎駅から上越線に乗り換え水上駅を目指す。目指すと言っても私は乗っているだけだ。特にすることはない。これさっきも書いた気がする。そういう旅なのだ。私にとっての青春18きっぷとは、楽しいけれど、堪えるものでもあるのだ。ずっと座っているのでお尻が痛い。
車窓から群馬を代表する山「赤城山」が見えた。明治の三老農の1人「船津伝次平」氏は赤城山に草刈りに行き「石苗間」を考案した。ただ今これを読んでくれている方は思っているだろう、赤城山を見ているお前ではなく、赤城山そのものの写真を載せろ、と。
なんと言えばいいのか、そういうのを忘れていた。全部に私が当たり前のように写っている写真しかなかった。青春18きっぷとはそのようなものなのだ。いや、正確に言えば、「青春」とはそのようなものなのだ。青春とは写真に自分を写り込ませることなのだ。
水上駅に近づくと雨が降り始めた。天気予報では雨の予報は出ていなかったので、山の天気は変わりやすいということだろう。水上は随分と山の中なのだ。温泉があったり、バンジージャンプがあったりなどする。
日本海はまだなのか
水上駅では待ち時間があったので改札を出て駅前を少しだけ歩いた。青春18きっぷは改札を出られるので便利だ。全ての切符でそのようにして欲しい。目的地ではない場所を散策するのは通り過ぎるだけとは違い、そこに自分が来たという実感がある。
上越線に乗り込み長岡駅を目指す。目指すと言っても私は乗っているだけだ。特にすることはない。これさっきも書いた気がする。そういう旅なのだ。というのをさっきも書いた気がする。青春18きっぷとはそのような旅なのだ。お尻が痛い。
どこかの駅で電車が停まり、高校生が乗ってきた。男子校生が数人で話していた。「向上心のあるセミがカーテンにとまっていて」と話している。前後が聞き取れなかったのだけれど、向上心のあるセミとはどのようなセミなのだろうか。普通のセミは向上心がないのだろうか。
あまりこのようなことを書きたくないのだけれど、正直飽きた。流れる景色を見ているのは楽しいのだけれど、朝9時に狛江駅から電車に乗り、今は15時30分。すでに6時間半。それは飽きる。新幹線なら狛江駅から新潟駅を往復できてしまう。新幹線はすごいという話だ。
先の長岡を目指して電車に乗っている時もそうだったけれど、飽きたと言いながら写真は笑顔だった。新潟駅への電車でも笑顔。5時間を超えた辺りから人は笑顔になるようだ。これは新しい発見。個人差はあると思うけれど、笑顔になる人もいるのだ。
新潟駅へと向かう電車ということはこれが今回の旅では最後の電車ということだ。そして、どの写真にもやはり私は主人公のように写り込んでいた。謎だ。青春18きっぷは5時間を過ぎた辺りから人を笑顔にして、写真に映り込みたくなる力を持っているのだ。
黄色いカレーを食べる
到着した新潟駅は現在、工事中のようだった。数年後にくればさらに綺麗な駅になっていることだろう。なんにせよ達成感がすごい。狛江駅から約8時間。達成感しかない。ここで旅を終えても問題ない気がする。
ここで旅を終えてはダメなのだ。この旅の目的は日本海を見ること。青春18きっぷの旅に満足して忘れていた。新潟駅は通過点なのだ。ここから日本海なのだ。新潟駅の前に海が広がっているわけではない。日本海までの3.2キロほどを徒歩で移動する。
新潟駅から徒歩10分ほどの場所に「万代シテイバスセンター」があり、そこに「万代そば」というお店が存在する。「そば」と店名に入っているけれど、ここのカレーが新潟のソウルフードと言われているそうだ。朝から何も食べていなかったので日本海前に食べようと寄った。
カレーより私が大きいのはもう忘れて欲しい。カレーは黄色かった。値段も安い。普通カレーで490円、大盛りで580円。かなりの大盛りだ。お腹いっぱいになる。味はスパイシーで、ドロドロというよりプルプルという表現が正しいカレーだった。
カレーを食べ終わったらひたすら歩いた。夕暮れは近い。陽が落ちる前に日本海を見たいのだ。暗い海は波の音しか聞こえず、どこの海も一緒だ。せっかく8時間もかけて鈍行だけで日本海を見に来たので、この曇りなきまなこで日本海を見たいのだ。
日本海へ
商店街を歩き、アーケード街を抜け、日本海を目指して歩く。信号が横向きではなく、縦向きだったりと雪の多い地域であることが街の作りからもわかる。このような違いが旅の楽しみだ。
どこかの角で曲がると上り坂となった。座っていただけだけど、かなり疲れていたので、上り坂は歓迎するものではない。しかし、その坂を登り切ると海が見えた。この旅の最終目的地である日本海だ。ぜひ皆さんで一緒に日本海を見て欲しい。では、どうぞ。
正しくは「日本海を見ている私」ということになる。電車と徒歩と食事などで9時間ほどかかった。その苦労が報われた瞬間だ。日本海が私の曇りなきまなこに写り込んでいる。笑顔にならないわけがない。日本海は美しい。
日本海は静かだった。凪と言ってもいいだろう。釣り人がいて、家族連れが波と戯れていた。そんな静かな日本海をただただ眺める。夕暮れでとても美しい。私はここで気がついた。海も撮った方がいいのではないか、と。私が海を見ている写真ではなく。
見て欲しい、美しい日本海を。本当に日本海なの? と思うかもしれない。でも、本当に日本海なのだ。その気持ちはわかる。荒れ狂うイメージがある日本海だから、こんなに静かだと日本海と思わないかもしれない。でも、日本海なのだ。
日本海は何度も見たことあるけれど、この日の日本海はさらに美しく感じた。おそらく9時間もかけて見に来たからだ。その時間が日本海をより美しくしたのだ。来てよかった。青春18きっぷは1日分しか使っていないので2,410円。安い。全てのものやことに「ありがとう」と言いたくなった。
鈍行の旅は楽しい!
ふと日本海を見たくなって安く行きたいということで「青春18きっぷ」を使った。旅とはなんなのかをわからせてくれる切符だと思う。鈍行という時間のかかる移動がいろいろな体験を生んでくれるのだ。あと、日本海の写真がほぼないので、最後に載せておきます。本当に日本海まで行ったんです。